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「補助金は会社(法人)のための制度で、個人事業主の自分には関係ない」——そう思い込んで検索をやめてしまう人が少なくありません。結論から言うと、国の主要補助金の多くは個人事業主も申請できます。筆者自身、個人で飲食店を開業し、その後補助金の採択・交付を受けて無人サロンを運営している「使う側」の当事者です。
一方で、個人事業主だからこそぶつかる壁もあります。代表が「従業員0名の壁」。2026年度に誕生した大型の統合補助金は、ひとりで営む事業主は申請できません。この記事では、銀行で融資審査に携わった筆者が、「使える・使えない」の線引きから、その土台になる開業届・確定申告の話、副業・法人化との関係までを一次情報ベースで整理します。
この記事で得られること
– 個人事業主が使える/使えない補助金の可否一覧表(自分が申請できる制度が3分でわかる)
– 法人との違いと、従業員0名(ひとり事業)の壁がある制度の見分け方
– 開業届と青色申告が申請の土台になる理由と、審査側が確定申告書のどこを見るか
– 副業でも対象になる条件と、法人化のタイミングで補助金がどう変わるか結論を先に
1. 持続化・デジタル化・AI導入・省力化(カタログ注文型)は個人事業主も申請可能
2. 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(2026年度統合)は従業員0名では申請不可。雇用系助成金も従業員がいない事業主は対象外
3. どの制度でも土台は同じ。開業届+確定申告(できれば青色)+帳簿が「事業の証明書」になる
まず結論:個人事業主が使える/使えない補助金 早見表

多くの解説記事は制度を羅列するだけですが、個人事業主にとっての最初の関門は「そもそも自分は対象か」です。可否を1枚にまとめました。
| 制度 | 個人事業主 | 従業員0名(ひとり) | 個人ならではのポイント |
|---|---|---|---|
| 持続化補助金〈一般型/創業型〉 | ○ | ○ | 確定申告書(創業直後は開業届)で申請できる。個人の定番 |
| デジタル化・AI導入補助金 | ○ | ○ | 確定申告を1回以上済ませていることが実務上の前提 |
| 省力化投資補助金〈カタログ注文型〉 | ○ | △(特則あり) | 人手不足要件の示し方に0名特有の制約 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | ○(従業員1名以上) | × | 応募時点で常時使用する従業員0名は対象外(役員のみも不可) |
| 雇用系助成金(キャリアアップ・業務改善等) | ○ | × | 雇用保険に加入する従業員の存在が前提 |
| 自治体の補助金・創業支援 | ○ | 制度による | 家賃補助・創業助成など。探し方はこちら |
出典: 各補助金公式サイト・公募要領(本文の各制度の項にリンク)。可否の詳細条件は公募回ごとに変わり得ます。
つまり、ひとりで営む個人事業主の主戦場は「持続化・デジタル化AI・省力化カタログ」の3つ。従業員を雇っているなら統合補助金と雇用系助成金まで視野が広がります。開業タイミング別の全体像は開業で使える補助金一覧で解説しています。
なお、今の事業をたたんで別の事業に挑戦したい個人事業主向けには、事業承継・M&A補助金の廃業・再チャレンジ枠という選択肢もあります。個人事業主本人が再チャレンジの主体になれる枠で、在庫処分費・原状回復費・リース解約費などの廃業コストが補助対象です(補助上限150万円・補助率1/2または2/3)。開業する人向けの本記事の主旨からは外れますが、廃業を経て再挑戦する道もあることは知っておいて損はありません。
補助金の世界で「個人事業主」はどう扱われるか|法人との違い
補助金の公募要領に出てくる「中小企業者・小規模事業者」には、会社(法人)だけでなく個人事業主が含まれます。たとえば持続化補助金の対象は「常時使用する従業員が商業・サービス業で5人以下(宿泊・娯楽業、製造業その他は20人以下)」の小規模事業者で、法人か個人かは問いません(出典: 持続化補助金 公式サイト・中小企業庁 公募ページ)。
法人と個人で実際に違うのは、主に提出書類です。
| 項目 | 法人 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 事業の存在証明 | 履歴事項全部証明書(登記簿) | 開業届(税務署受付印あり) |
| 財務の証明 | 直近の決算書(貸借対照表・損益計算書) | 確定申告書(第一表・第二表+収支内訳書または青色申告決算書) |
| 納税の証明 | 法人税の納税証明書 | 所得税の納税証明書 |
補助上限や補助率で個人が不利になることは基本的にありません。むしろ「小規模事業者」区分に入りやすいため、補助率が2/3に優遇される制度もあります(省力化一般型、統合補助金の革新枠など。詳細は各制度記事へ)。
「従業員0名の壁」|ひとり事業主が入れない制度を先に知る
個人事業主向けの解説で最も軽視されがちなのがここです。「個人事業主OK」と「従業員0名OK」は別問題です。
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(2026年度統合): 応募申請時点で常時使用する従業員数が0名の事業者は補助対象外です。役員のみの法人も同様で、全枠共通の条件とされています(出典: 公式サイト・中小企業庁 第1回公募要領の公開ページ)
- 雇用系助成金(キャリアアップ助成金・業務改善助成金など): 雇用保険に加入する従業員がいることが前提のため、ひとり事業主は対象外です(出典: 厚生労働省 事業主向け助成金ページ)
- 省力化投資補助金〈カタログ注文型〉: 個人事業主は対象ですが、「人手不足の状態」を示す要件があり、従業員0名の場合は選べない理由区分があるなど特則があります。事業実態の追加確認に関する記載もあるため、0名で申請する場合は要領とFAQの確認が欠かせません
なぜこんな壁があるのか。統合補助金は「生産性向上の成果を賃上げにつなげる」ことを制度目的に置いているためです。賃上げする従業員がいない事業者は、制度の設計上、成果を測れないという理屈です。
ひとり事業主が取るべき戦略はシンプルで、無理に大型制度を狙わず、持続化・デジタル化AI・省力化カタログの3つで足元の投資を固めること。従業員を雇う計画があるなら、雇用後に統合補助金へ進む順序になります(筆者のものづくり補助金解説も参考に)。
開業届と青色申告が「申請の土台」になる理由

個人事業主の補助金申請は、実は申請書を書き始める前の「土台」で勝負が半分決まります。土台とは開業届・確定申告書・帳簿の3点セットです。
開業届は「事業が存在する」ことの唯一の公的証明
法人の登記簿に相当するものが、個人事業主には開業届しかありません。持続化補助金では、創業して決算期(確定申告)を迎えていない場合、税務署受付印のある開業届の写しで申請できます(出典: 持続化補助金 公式サイトの様式・提出書類案内)。逆に言えば、開業届を出していない事業は、制度上「存在しない」のと同じ扱いです。
確定申告書は「個人事業主の決算書」として審査される
制度ごとに、個人事業主が求められる書類は微妙に違います。
| 制度 | 個人事業主の主な必要書類 |
|---|---|
| 持続化補助金 | 直近の確定申告書【第一表・第二表+収支内訳書(白色)or所得税青色申告決算書(青色)】。決算期未到来の創業者は開業届 |
| デジタル化・AI導入補助金 | 本人確認書類+直近の確定申告書(第一表)の控え+所得税の納税証明書(その1またはその2) |
| 省力化・統合補助金など | 確定申告書類を含む事業実態・財務の確認書類(制度・枠により相違) |
出典: 持続化補助金 公式/デジタル化・AI導入補助金 交付申請マニュアル(PDF)
注目してほしいのは、デジタル化・AI導入補助金が納税証明書まで求める点です。つまり「確定申告を1回以上済ませ、納税していること」が実務上の入口になります。開業したての1年目は、確定申告を経るまで申請できない制度があるということです。
青色申告にしておくと何が違うか
青色申告の青色申告決算書は、貸借対照表・損益計算書を備えた「個人版の決算書」です。白色の収支内訳書より事業の全体像を示せるため、補助金の事業計画で「現状の数字」を語る材料になります。65万円控除などの税務メリットと合わせて、これから申請を考えるなら青色を選ばない理由はほぼありません(税金面の整理は補助金と税金の記事へ)。
監修者DKメモ|元銀行員・FP2級
銀行で個人事業主の融資審査をしていた頃、見ていたのはまさに確定申告書の中身でした。具体的には、売上と所得のバランス(節税で所得をゼロ近くまで圧縮していると、返済能力も事業の体力も証明できません)、売上の計上が現金商売の実態と合っているか、専従者給与の妥当性、そして2〜3年分の推移です。補助金の審査でも出す書類は同じ。「税金を減らすための申告」と「事業の力を証明する申告」はトレードオフだと知っておいてください。
個人事業主が使える4制度|それぞれの押さえどころ
可否一覧で「○」だった制度の、個人事業主目線の要点だけ絞って紹介します。制度の全体像は各記事に譲ります。
1. 持続化補助金〈一般型/創業型〉——個人の定番、最初の一本
チラシ・HP・看板・小規模な設備など販路開拓に使える、個人事業主の利用が最も多い制度です。一般型〈通常枠〉は上限50万円(特例で最大250万円)・補助率2/3、創業型は上限200万円。第20回公募は2026/11/5受付開始、12/15 17:00締切です(出典: 公式サイト・中小企業庁)。創業型は市区町村の特定創業支援の修了が要件になるため、創業者向け補助金の記事で先に段取りを確認してください。
2. デジタル化・AI導入補助金——会計・予約・POSなどITツールに
旧IT導入補助金。会計ソフト・予約システム・POSレジなど、ひとり事業の生産性を上げるツールと相性が良い制度です。通常枠は5万円〜450万円・補助率1/2以内(条件により2/3)。直近の1次締切分は2026/9/29 17:00です(複数者連携デジタル化・AI導入枠は2026/10/30 17:00)。以降の回は公式スケジュールで確認できます(出典: 公式 通常枠)。前述の通り、個人は確定申告1回以上+納税証明書が実務上の前提です。なおインボイス発行事業者に転換した個人事業主は、持続化補助金のインボイス特例(上限一律+50万円)やデジタル化・AI導入補助金のインボイス枠(会計・受発注・決済ソフトが対象)も使えるため、免税事業者のままか転換するかは補助金の使いやすさも含めて判断すると良い視点です。
3. 省力化投資補助金〈カタログ注文型〉——随時受付で動きやすい
券売機・自動精算機・清掃ロボットなど、カタログ掲載製品を選んで申請する方式。公募締切に縛られない随時受付で、2026年3月19日の改定で従業員5名以下の上限が200万円→500万円(賃上げ特例750万円)に引き上げられました(出典: 公式 制度改定ページ・カタログ注文型トップ)。ひとり店舗の省人化投資に向きます。詳細は省力化投資補助金の記事へ。
4. 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金——従業員がいる個人事業主なら
2026年度にものづくり補助金と新事業進出補助金が統合された大型制度。従業員1名以上を雇っている個人事業主は対象になり得ます。第1回公募は申請受付2026/9/30開始・締切10/30(当初は受付8/31開始・締切9/30の予定だったが2026/7/17改定)。事業計画の要求水準が高いため、新事業進出補助金の記事と事業計画書の書き方をセットで読むことをおすすめします。
副業でも補助金は使えるか|開業届を出せば「入口」には立てる

会社員の副業でも、補助金の対象になる道はあります。ただし条件が3つ揃っている必要があります。
- 開業届を提出している — 税務署に開業届を出し、個人事業主になっていること
- 確定申告で「事業所得」として申告している — 開業届のない副業収入は「雑所得」となり、事業とみなされません
- 事業実態がある — 帳簿・請求書・事業用口座など、継続・反復して事業を営んでいる証拠
この3条件を満たせば、持続化補助金やデジタル化・AI導入補助金は副業の個人事業主でも申請の入口に立てます。
注意したいのは、開業届は「出せば通る」魔法の紙ではないことです。持続化補助金では商工会議所・商工会が事業支援計画書(様式4)を発行する過程で事業の中身を確認しますし、申請書に書く経営計画そのものが「実態のある事業か」を映し出します。売上ゼロ・活動実績ゼロの状態で書類だけ整えても、採択は現実的ではありません(採択率の実態も参考に)。
また、勤務先の就業規則(副業規定)と、補助金は課税対象である点(税金の記事)の確認もお忘れなく。
監修者DKメモ|元銀行員・FP2級
審査する側の目線で言うと、「事業かどうか」は書類の枚数ではなく継続性と再現性で判断します。毎月請求書が発行されているか、入金が事業用口座に集まっているか、経費と売上の対応が説明できるか。副業で申請するなら、開業届を出した日から帳簿と口座を分けておく——この地味な習慣が、1年後の申請書類の説得力を作ります。
法人化のタイミングと補助金|法人成りで何が変わるか

「法人化してからのほうが補助金に有利ですか?」はよく受ける質問です。結論、個人のままでも主要制度は使えるため、補助金だけを理由に急いで法人化する必要はありません。そのうえで、法人成りが効く場面はあります。
- 従業員を雇い、賃上げ要件のある大型制度を狙うとき: 統合補助金のように賃上げを成果指標とする制度は、雇用と給与体系が整った法人のほうが計画を作りやすいのが実務です(筆者の見解)
- 投資規模が大きく、融資との合わせ技になるとき: 補助金は後払いのため、大型投資ではつなぎ資金や融資が前提になります。決算書を持つ法人は金融機関との交渉材料が増えます
- 設立コスト自体を下げられる制度がある: 市区町村の特定創業支援等事業の支援を受けて証明書をもらうと、株式会社設立時の登録免許税が半額(最低税額15万円→7.5万円)になります(出典: 中小企業庁 産業競争力強化法に基づく創業支援)。段取りは創業者向け補助金の記事で解説しています
一方で注意点もあります。補助事業の実施中に法人成りすると、地位の承継手続きが必要になり、制度によって扱いが異なります。また法人化直後は法人としての決算書がなく、審査では個人時代の確定申告書で判断される場面が残ります。申請と法人化の時期が近い人は、順序を先に設計してください(筆者の見解)。
申請前の準備3ステップ
- GビズIDプライムを取得する — 主要補助金の電子申請に必要です。個人事業主はマイナンバーカードがあればオンラインで短期間で取得できます。手順はGビズIDの記事へ
- 確定申告書と帳簿を「見せられる状態」に整える — 本記事で述べた通り、確定申告書は添付書類であると同時に審査材料です
- 後払い前提の資金計画を作る — 補助金は実績報告後の入金です。自己資金とつなぎ資金の設計、申請の落とし穴(交付決定前の発注は対象外など)を先に押さえてください
よくある質問
Q. 開業1年目(確定申告前)でも申請できますか?
制度によります。持続化補助金は開業届の写しで申請できる一方、デジタル化・AI導入補助金は確定申告書と納税証明書が求められるため、実務上は1回目の確定申告後が入口です。
Q. 商工会議所の会員でなくても持続化補助金に申請できますか?
会員・非会員を問わず申請できます。ただし地域の商工会議所・商工会で事業支援計画書(様式4)の発行を受ける必要があります。
Q. もらった補助金に税金はかかりますか?
かかります。個人事業主の場合、原則として事業所得の収入金額(総収入金額)に算入されます。設備投資なら圧縮記帳の検討余地もあります。詳しくは補助金と税金の記事へ。
Q. フリーランス(店舗なし)でも対象になりますか?
開業届を出して事業所得で申告していれば、業種要件を満たす限り対象になり得ます。持続化補助金・デジタル化・AI導入補助金はWeb制作者やコンサルタントなど無店舗の採択例もあります。
Q. 開業届を出していないと補助金の対象になりませんか?
実務上は対象外になりやすいです。開業届のない副業収入は税務上「雑所得」扱いとなり、事業の存在自体を証明できません。継続的な副業収入があるなら、まず開業届の提出を検討してください(中小企業庁の後継支援ポータル関連情報等でも同様の整理がされています)。
Q. 副業はどのくらいの規模から開業届を出すべきですか?
明確な金額基準はありませんが、副業所得が継続的に発生し年20万円を超える見込みがあるなら確定申告(事業所得)が必要になるため、その時点で開業届も合わせて提出するのが一般的な目安です。ただし補助金の採択は所得額ではなく事業計画の実現可能性で判断される点に注意してください。
まとめ:個人事業主が今日からやる3つのこと
- 可否一覧表で自分が入口に立てる制度を2つに絞り、公式の公募要領をブックマークする(ミラサポplusでの定点観測も有効)
- 開業届・青色申告・帳簿の土台を整える(副業の人はまず開業届の検討から)
- GビズIDの取得と資金計画を先に済ませ、次の公募締切から逆算して動く
開業タイミング別の制度の全体像は開業で使える補助金一覧、申請書の作り方は事業計画書の記事へ。あなたの事業規模に合う一本から始めてください。
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この記事の執筆・監修|DK(元銀行員・FP2級)
元地方銀行員(融資審査7年・医療機関向け融資専門)。FP2級・日商簿記2級・証券外務員。事業再構築補助金の採択・交付を受け、24時間無人のセルフ脱毛サロンを開業・運営。飲食店の開業・業態転換も経験。金融ライター歴10年以上・執筆数千本。
