制度解説

補助金の相見積もり完全ガイド|何社から・いくらから必要?業者選定理由書の書き方

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補助金は「採択されたら終わり」ではありません。採択後の交付申請では、使う経費1件ごとに見積書を出し、一定額を超える買い物には相見積もり(あいみつ)が求められます。ここでつまずいて「発注をやり直す」「経費が減額される」という事業者を、筆者は自分の交付申請(採択後の手続きの記事)でも、周囲でも何度も見てきました。銀行で融資審査をしていた側の経験から言うと、相見積もりの本質は「価格の妥当性を第三者が確認できる形に残す」ことです。この記事では、何社から・いくらから必要かという基準と、相見積もりが取れないときの「業者選定理由書」の書き方までを整理します。

この記事で得られること
– 持続化補助金・新事業進出補助金など制度別の相見積もり金額基準の比較
– 相見積もりが取れないときに使う「業者選定理由書」の書き方と認められやすい理由
– 交付申請でよくある差し戻し・減額の実例と回避策
– 元融資審査担当が見る「価格の妥当性」の本質

結論を先に
1. 多くの補助金で、1件あたり税込(または税抜)50万円を超える発注には2社以上の見積もりが必要
2. 相見積もりが取れない場合は「業者選定理由書」で発注先を1社に絞った合理的理由を説明する
3. 見積もりは発注(契約)より前に取る。順番が逆だと経費として認められないことがある
4. 金額基準は公募回ごとに改定されるため、申請する回の最新公募要領で必ず確認する

相見積もりはなぜ必要?審査する側から見た理由

相見積もりを求められる理由は、突き詰めると一つです。補助金は税金の一部を原資にしているため、事務局は「その金額が妥当か」を、申請者の言い分だけでなく客観的な資料で確認する必要があります。銀行の融資審査でも、設備投資の稟議には必ず複数の見積もりを求めていました。理由は補助金と同じで、「この業者・この金額でなければならない理由」を書類だけで説明できるようにするためです。

裏を返せば、相見積もりは「不正を疑われているから」ではなく、「後から誰が見ても、高い買い物ではなかったと分かるようにする」ための手続きです。ここを理解しておくと、なぜ発注前に見積もりを取る必要があるのか、なぜ同一条件で比較する必要があるのかが腑に落ちます。

図1: 採択から発注までの正しい順番
①採択発表 ②相見積もり収集 ③交付申請 ④交付決定後に発注

※多くの制度で、交付決定日より前の発注・契約・支払いは補助対象外になります。見積もりだけは交付決定前に集めておくのが正しい進め方です(交付申請〜実績報告の全体像はこちら)。

いくらから必要?制度別・相見積もり金額基準一覧

金額の基準は制度ごとに異なり、しかも公募回によって改定されることがあります。2026年8月時点で確認できる主な制度の基準は次のとおりです。数字は必ず、申請する回の公募要領本文で最終確認してください。

制度 相見積もりが必要な金額 必要な社数
持続化補助金<一般型・通常枠>(第20回) 1発注あたり税込50万円超
(第19回以前は税込100万円超が基準でした)
2社以上
新事業進出補助金 単価税抜50万円以上の物件等 2社以上
ものづくり補助金(統合前の旧制度) 単価税抜50万円以上 2社以上
事業再構築補助金(第13回公募要領) 1件あたり税抜50万円以上
(新品・中古品とも)
3者以上
(他制度より1者多い点に注意)
省力化投資補助金など他制度 制度ごとの公募要領に規定
(多くが50万円前後を目安に規定)
2社以上が一般的

※事業再構築補助金は2025年3月の第13次公募で新規募集を終了していますが、既に採択済みで交付申請・実績報告を控えている事業者はまだ多いため、基準として残しています(筆者自身の採択記録はこちら)。後継制度の枠組みで再開する場合は、金額基準・必要社数とも新しい公募要領で必ず確認してください。

中古品を購入する場合は、この金額基準に関わらず複数者(制度によっては3者以上)から同等品の見積もりを取ることを求める制度が多い点にも注意してください。事業再構築補助金では中古品も新品と同じく3者以上、かつ古物商許可を得た中古品流通事業者からの取得が求められます。また「50万円未満になるよう分割して発注する」ことは、複数の制度で明確に禁止されています。分割発注が発覚すると、その経費全体が補助対象外になるだけでなく、交付決定後に発覚した場合は補助金の返還・不正受給として扱われ、加算金を含めた返還を求められることもあります。

基準額未満でも見積書は必要?よくある誤解

「50万円を超えなければ何も書類はいらない」と誤解している申請者が多いのですが、これは正確ではありません。相見積もり(2社以上の比較)が不要なだけで、見積書そのものは基準額に関わらずほぼすべての経費で必要になります。事務局は「その金額を、どの業者にいくらで発注したか」を経費ごとに確認するため、少額の消耗品購入でもレシートや請求書だけでなく、依頼先発行の見積書を求められることがあります。

特にウェブサイト関連費や広報費のように、成果物の相場が分かりにくい経費は、たとえ少額でも内訳(制作費・デザイン費・掲載費など)が明確な見積書を求められる傾向があります。「基準額を超えていないから適当でいい」と考えず、経費計画の段階から見積もりを取る癖をつけておくと、交付申請での差し戻しが減ります。

見積もり依頼の実務ステップ|同一条件で比較するコツ

相見積もりで差し戻される最大の原因は「2社の見積もりが同一条件になっていない」ことです。筆者が実際にやって手戻りが少なかった手順は次の5つです。

  1. 仕様書を1枚にまとめる|型番・数量・オプション・納期・保守条件を箇条書きにする
  2. 同じ仕様書を全社に同時送付する|口頭で伝えると業者ごとに解釈がずれる
  3. 見積依頼日を記録に残す|メールで依頼し、送信日時をそのまま証跡にする
  4. 見積書の宛名を統一する|屋号・法人名の正式表記を依頼メールに明記しておく
  5. 金額差の理由をメモしておく|最安値以外を選ぶ場合、後で業者選定理由書に書けるよう理由を残す

この手順を踏んでおくと、交付申請の書類作成だけでなく、後の実績報告でも同じ見積書・発注書のセットをそのまま使い回せます。

相見積もりが取れないときは?「業者選定理由書」の書き方

特注品を作れる業者が1社しかない、特許・意匠権を持つ業者でなければ導入できない——このように相見積もりを取ること自体が現実的でない場合は、業者選定理由書を提出することで、1社への発注が認められることがあります。

認められやすい理由の典型例は次のとおりです。

  • 発注先が特許権・実用新案権・意匠権・独占販売権を持ち、他社では同等品を調達できない
  • 既存の設備・システムに機能を追加するもので、既存業者以外では互換性が保てない
  • アフターサービス・保守体制が事業の継続に不可欠で、価格差以上の合理性がある

逆に、「昔からの付き合いだから」「近いから」「事務局に間に合わないから」といった理由は、多くの場合は認められません。事務局側から見れば、これらは価格の妥当性を何も説明していないからです。

図2: 業者選定理由書に書くべき4項目
項目 書く内容の例
①選定業者 正式名称・所在地・担当者名
②選定理由 なぜ相見積もりが取れないか(権利関係・互換性など)を具体的に
③価格の妥当性 過去の取引実績・カタログ価格・値引き交渉の経緯
④裏付け資料 特許証・独占販売契約書・見積書など添付書類

元融資審査担当が見ていた「もう一つのチェック」

銀行の稟議では、見積もりの金額だけでなく、その業者が実在し、継続して取引できる相手かもあわせて確認していました。設立間もない業者や、ホームページも所在地情報もほとんど出てこない業者から急に高額な見積もりが出てきた場合、金額が相場並みでも稟議が通りにくいというのが実感です。

補助金の事務局も、これに近い視点で書類を見ています。見積書の発行元が実在する事業者かどうか(法人番号・所在地・電話番号が確認できるか)は、価格の妥当性そのものではありませんが、審査担当者が「不自然さ」を感じる大きな要因になります。相見積もりを取る際は、価格だけでなく、依頼先の会社概要が最低限確認できる相手を選ぶことをおすすめします。

交付申請でよくある差し戻し・減額パターン

筆者が自分の交付申請と周囲の事例で見てきた、よくあるつまずきをまとめます。

よくあるつまずき 結果と対策
見積書の発行日が発注日より後 経費として認められない。必ず「見積依頼→見積取得→発注」の順で日付を残す
2社の見積もりで型番・仕様がバラバラ 「同一条件での比較」になっていないと差し戻される。依頼時点で仕様書を統一する
身内・関連会社への発注 代表者・役員の親族企業などへの発注は原則対象外、または厳格な確認が入る
見積書の宛名が申請者名と不一致 屋号・法人名の表記ゆれも指摘対象になる。取得前に依頼先へ正式名称を伝える

【体験談】筆者が交付申請で相見積もりを取ったときの実際

筆者は事業再構築補助金の採択後(採択の記録はこちら)、脱毛機器などの設備を発注する際に相見積もりを取りました。実際にやってみて感じたのは、「見積もりを取ること自体」より、「同じ条件で複数社に依頼すること」の方が手間だったという点です。型番・オプション・保守条件をそろえて依頼しないと、比較にならない見積もりが返ってきます。依頼する時点で仕様書を1枚作り、それを全社に同じ形で送ったことで、後の交付申請の書類作成がかなり楽になりました。この経験から、相見積もりは「採択後に慌てて取るもの」ではなく、事業計画書を書いている段階である程度候補業者に当たりをつけておくと、その後の手続きが早くなるとお伝えしています。

よくある質問

Q. 相見積もりは何社まで必要ですか?多いほど良いですか?
基準を満たす2社(制度によっては3社)で十分です。無理に多く集める必要はありません。重要なのは社数より「同一条件で比較できているか」です。

Q. ネット通販での購入でも相見積もりは必要ですか?
制度によります。市販品をECサイトで購入する場合、価格の妥当性を示す資料(価格.comの比較画面など)で代替できるケースもありますが、基本は公募要領の指示に従ってください。

Q. 見積もりを取った業者に発注しなくても問題ないですか?
問題ありません。相見積もりは価格の妥当性を確認するための手続きであり、最安値以外を選ぶ場合は、その理由を業者選定理由書などで説明できるようにしておきます。

Q. 個人事業主でも同じ基準が適用されますか?
はい。個人事業主でも法人でも、相見積もりの基準は同じ公募要領が適用されます。

Q. 実績報告のときも見積書は使いますか?
使います。実績報告では、交付申請時に添付した見積書・発注書・納品書・請求書・振込明細までが一連の証憑としてそろっているかを確認されます。交付申請の段階でファイルをひとまとめにしておくと、実績報告の作成が大幅に楽になります(実績報告までの流れ)。

Q. 相見積もりの代行を業者やコンサルに頼んでもいいですか?
見積もり収集そのものは事務作業なので代行を頼んでも問題ありませんが、価格の妥当性を最終的に判断し説明する責任は申請者にあります。代行費用の相場と注意点もあわせて確認してください。

Q. 見積書は税込・税抜どちらの金額で基準額を判定しますか?
制度によって異なります。上の一覧表のとおり、持続化補助金は税込50万円、新事業進出補助金や(統合前の)ものづくり補助金は税抜50万円が基準です。同じ「50万円」でも消費税の扱いが違うため、申請する制度の公募要領で税込・税抜のどちらかを必ず確認してください。境界線に近い金額の発注では、この違いだけで相見積もりの要否が変わります。

Q. 見積書はデータ(PDF)と紙、どちらで保存すればいいですか?
多くの制度で電子データでの提出・保存が認められていますが、発行日や社印の有無が確認しにくいスキャン・改変を疑われないよう、業者から発行された原本データ(メール添付のPDFなど)をそのまま保存し、自分でPDFを加工しないことが基本です。見積依頼から発注までのメールも、日付の証跡としてまとめて残しておくと交付申請・実績報告の両方でそのまま使えます。

まとめ|相見積もりは「後から説明できる形」を作る作業

相見積もりも業者選定理由書も、本質は同じです。「なぜその金額・その業者を選んだか」を、自分以外の誰かが見ても納得できる形で残しておくこと。金額基準や必要書類は公募回ごとに変わるため、この記事の数字を鵜呑みにせず、申請する回の最新の公募要領・交付申請の手引きを必ず確認してください。交付申請の全体像は採択後の手続きの記事、経費が実際にいくら手元に残るかは補助金と税金の記事もあわせてご覧ください。

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この記事の執筆・監修|DK(元銀行員・FP2級)

元地方銀行員(融資審査7年・医療機関向け融資専門)。FP2級・日商簿記2級・証券外務員。事業再構築補助金の採択・交付を受け、24時間無人のセルフ脱毛サロンを開業・運営。飲食店の開業・業態転換も経験。金融ライター歴10年以上・執筆数千本。

運営者について

DK

DK 元銀行員・FP2級|補助金採択で無人サロン開業

地方銀行で法人融資・融資審査を7年担当(医療機関向け融資専門)。独立後は金融ライターとして10年以上・数千本を執筆。事業再構築補助金の採択・交付を受けて24時間無人のセルフ脱毛サロンを開業・運営中。飲食店の開業・業態転換も経験。「貸す側」「借りる側」「補助金を使う側」の3つの立場を実体験した視点で解説しています。保有資格: FP2級/日商簿記2級/証券外務員。