制度解説

補助金の人件費は対象になる?制度別の扱いと落とし穴を元銀行員が解説

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「事業計画書には人件費を書いているのに、なぜ補助金の対象経費には入らないのか」という質問を、筆者は融資審査の現場でもライター業でも数えきれないほど受けてきました。結論から言うと、自社の役員報酬・従業員給与・アルバイト代は、経済産業省系の主要な補助金ではほぼ例外なく補助対象外です。一方で、厚生労働省の業務改善助成金のように、賃金の引き上げそのものが交付の前提になる制度もあります。この「対象外」と「対象そのもの」が同じ「人件費」という言葉の中に同居しているのが、多くの申請者を混乱させる原因です。元銀行員として融資審査に携わり、自らも事業再構築補助金の採択を受けた経験から、制度ごとの扱いの違いと、実務でつまずきやすいポイントを整理します。

この記事で得られること
– 持続化補助金・事業再構築補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金における人件費の扱いの違い
– 人件費が対象外とされる補助金の大原則と、唯一の例外である「専門家経費」との線引き
– 人件費(賃金)の引き上げそのものを支援する業務改善助成金という真逆の制度
– 「雑役務費」を人件費と混同して不採択・減額になる典型パターン

結論を先に
1. 小規模事業者持続化補助金・事業再構築補助金は、自社の人件費(役員報酬・給与・アルバイト代)を対象外経費として公募要領に明記している
2. ものづくり補助金・IT導入補助金も自社人件費は対象にならず、対象になり得るのは外部専門家への謝金など別区分の経費のみ
3. 厚生労働省の業務改善助成金は逆に「賃金を引き上げること」自体が交付の要件で、助成対象は賃上げに伴う設備投資費用

結論:自社の人件費は「原則、補助金の対象外」

まず前提を揃えます。ここでいう「補助金」は経済産業省・中小企業庁が所管する小規模事業者持続化補助金や、事業再構築補助金の後継にあたる新事業進出補助金(単独公募は終了しものづくり補助金と統合した「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」に移行済み)、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)中小企業省力化投資補助金を指します。これらはいずれも、役員報酬・従業員給与・アルバイト代といった「自社の人件費」を補助対象経費から明確に除外しています。根拠は建前論ではなく、実際に各制度の公募要領に明記された条文です。次の章で制度ごとの原文表現を確認します。

なぜ人件費は補助対象外なのか?補助金の大原則

補助金は「補助事業の遂行に直接必要で、事業がなければ発生しなかった経費」だけを対象にするのが大原則です。自社の人件費は、補助事業に取り組んでいなくても通常の事業運営で必ず発生する固定費であり、その支出が補助事業のために生じたものかどうかを客観的に切り分けることが難しいという性質を持ちます。加えて、雇用調整助成金やキャリアアップ助成金など、人件費そのものを対象にする助成金制度が別に存在するため、経済産業省系の補助金が同じ経費を重ねて支援すると二重取りになってしまう、という制度設計上の理由もあります。

制度別「人件費の扱い」一覧

主要な制度でどう書かれているか、公募要領の記載を基に整理しました。

制度別・人件費の扱い一覧
制度 人件費の扱い 根拠・補足
持続化補助金 対象外 「役員報酬、直接人件費」および「雑役務費(アルバイト代などの人件費等)」を対象外経費として明記
事業再構築補助金(募集終了・旧制度) 対象外 「事業に係る自社の人件費、旅費」を対象外経費として明記。単独公募は終了し新事業進出補助金へ継承
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 原則対象外 自社役員・従業員の給与等は対象外。対象になり得るのは外部専門家への謝金(専門家経費)のみ
デジタル化・AI導入補助金 対象外(経費区分自体が存在しない) 補助対象経費はソフトウェア費・導入関連費等、登録ITツールに関する費用に限定される
中小企業省力化投資補助金 対象外(ただし算定要素に使う) 自社人件費そのものは補助対象外。ただし「削減した作業時間×人件費単価」を投資回収期間の算定式に使う点が特徴
業務改善助成金(厚労省) 賃上げそのものが交付要件 人件費(賃金)を補助する制度ではなく、最低賃金引き上げを実現するための設備投資費用等を助成

※出典は本文末尾の「出典(一次情報)」を参照。年度・公募回により条文表現や金額が変わるため、申請時は必ず最新の公募要領を確認

持続化補助金(一般型・通常枠)の公募要領では、補助対象外となる経費の一覧に「役員報酬、直接人件費」と「雑役務費(アルバイト代などの人件費、派遣労働者の派遣料、交通費として支払われる経費等)」がそれぞれ明記されています。事業再構築補助金(旧制度・第13回公募要領)でも同様に、「事業に係る自社の人件費、旅費」が対象外経費のリストに含まれており、この考え方は後継の新事業進出・ものづくり商業サービス補助金にもそのまま引き継がれています。いずれの制度でも、対象になるのは機械装置費・広報費・ウェブサイト関連費・外注費といった、人以外の経費区分に限られます。

DK

監修者DKメモ|元銀行員・FP2級

融資審査の現場では、返済原資を「営業利益+減価償却費」のようなキャッシュフローで見ます。補助金の人件費対象外という原則も発想は同じで、「補助事業がなくても発生する固定費」を投資支援の対象にはしない、という線引きです。事業計画書に人件費の数字が求められるのは経費計上のためではなく、後述する成果指標の算定根拠だからだと理解すると、混乱が減ります。

唯一の抜け道は「専門家経費」「外注費」との違い

「人件費は対象外」と言われると、外部に業務委託すれば対象になるのではと考える人もいますが、線引きは明確です。自社の役員・従業員に対する給与・賞与・退職金は、雇用形態や勤務時間に関わらず一律で対象外です。一方、対象になり得るのは、学識経験者・税理士・中小企業診断士・ITコーディネーターといった外部の専門家に技術指導やコンサルティングを依頼した場合の謝金(専門家経費)や、加工・設計等の一部を外部に発注する外注費です。旧・事業再構築補助金では専門家経費として、大学教授・弁護士・弁理士・公認会計士・医師は1日5万円以下、准教授・技術士・中小企業診断士・ITコーディネーターは1日4万円以下、それ以外は1日2万円以下という謝金単価の上限が定められていました。後継の新事業進出・ものづくり商業サービス補助金にも同様の専門家経費区分がありますが、単価は制度・公募回ごとに改定され得るため、申請時は必ず最新の公募要領で確認してください。自社の代表者や従業員を形式だけ外注扱いにして計上することは、当然ながら認められません。

業務改善助成金は真逆|賃上げそのものが支援対象

ここまでの経産省系補助金とは対照的に、厚生労働省の業務改善助成金は「事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げる」ことを交付の前提にした制度です。助成の対象になるのは賃金の差額そのものではなく、賃上げを実現するための生産性向上に資する設備投資(POSレジ導入、リフト付き車両導入、経営コンサルティングなど)にかかった費用です。令和8年度は賃金引上げ額に応じて50円・70円・90円の3コースがあり、助成率は事業場内最低賃金が1,050円未満の場合4/5、1,050円以上の場合3/4、助成上限額は引き上げる労働者数と事業場規模に応じて段階的に決まり、90円コースで10人以上を引き上げる場合の上限は600万円です。申請は事業所単位、令和8年度の申請受付は9月1日から始まり、事業完了期限は交付決定年度の1月31日です。

業務改善助成金の助成上限額(90円コース・従業員30人未満の事業者の場合)
引き上げる労働者数 助成上限額
1人 100万円
2〜3人 240万円
4〜5人 270万円
6〜7人 360万円
8人以上 450万円
10人以上(特例事業者) 600万円

※出典は本文末尾の「出典(一次情報)」を参照。50円・70円コースは上限額が異なる。従業員30人以上の事業者は一部区分の上限額が変わる

「雑役務費」の落とし穴|アルバイト代の誤解計上に注意

持続化補助金の申請でよくある誤解が、「臨時のアルバイトなら人件費ではなく経費として計上できるのでは」という思い込みです。公募要領は、アルバイト代・派遣労働者の派遣料・交通費として支払われる経費を「雑役務費」として明確に対象外に区分しています。これを機械装置費や外注費に紛れ込ませて計上すると、交付申請時の精査や実績報告時の確認で経費として認められず、その分が減額されるか、計上経費の大半が対象外と判断された場合は不採択・交付決定取消のリスクにもつながります。融資審査で書類の不備が信用を損なうのと同じように、経費区分の誤りは審査担当者への印象を悪くする地味な減点要因です。相見積もりの取り方と同様、経費区分は公募要領の原文に忠実に照らして計上することが重要です。

なぜ事業計画書には人件費の数字を書かされるのか

「人件費が対象外なら、なぜ事業計画書や収益計画には給与支給総額を記載させられるのか」という疑問もよく聞きます。答えは、これらの数字が補助対象経費ではなく、採択後の成果指標(付加価値額要件)の算定根拠として使われるからです。事業再構築補助金では「付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費」という算式で、補助事業終了後3〜5年間の年平均成長率3.0〜4.0%以上の増加が補助対象事業の要件になっています。つまり人件費は「使ってよい経費」ではなく「増やすべき成果の一部」として登場するわけです。この構造を理解していないと、経費計上と成果指標を混同してしまい、事業計画書の説得力を欠くことになります。

DK

監修者DKメモ|元銀行員・FP2級

融資審査でも「人件費をいくら使ったか」ではなく「その投資が将来どれだけ付加価値(≒返済原資)を生むか」を見ます。補助金の成果指標もロジックは同じです。人件費を対象経費にできないからこそ、採用計画と売上計画の整合性を数字で示せるかどうかが、審査を通す事業計画書とそうでない事業計画書の分かれ目になります。

人件費を対象にできないなら、資金計画はどう組むか

補助金で人件費を賄えない以上、開業直後や増員時の人件費は、自己資金と創業融資で先に手当てする必要があります。日本政策金融公庫には、業務改善助成金と併用可能な「働き方改革推進支援資金」のように、賃上げに取り組む事業者向けの融資メニューもあります。補助金は機械装置や広告費など「投資」に使い、人件費のような「運営費」は融資でつなぐ、という役割分担で資金計画を組むのが現実的です。補助金入金までのつなぎ資金主要制度の採択率も合わせて確認し、資金繰りの見通しを立てておくと安心です。

よくある質問

Q. アルバイトを新しく雇う費用は補助金の対象になりますか?
持続化補助金では「雑役務費」として明確に対象外です。事業再構築補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金でも、自社の雇用契約に基づく人件費は原則対象になりません。

Q. 個人事業主の専従者給与は対象になりますか?
専従者給与も自社の人件費に含まれるため、経産省系補助金では対象外として扱われるのが基本です。詳細な線引きは制度・公募回によって異なるため、申請前に公募要領の最新版で確認してください。

Q. 外部のコンサルタントに支払う費用はどう扱われますか?
「専門家経費」として補助対象になり得ます。ただし謝金単価に上限があり、資格・専門性の区分によって1日あたりの上限額が変わります。自社の役員・従業員を形式的に外注扱いにすることは認められません。

Q. 業務改善助成金と持続化補助金は同時に使えますか?
制度の目的が異なる(業務改善助成金は賃上げに伴う設備投資、持続化補助金は販路開拓等)ため、対象経費が重複しなければ検討の余地はあります。ただし同一の経費を二重に申請することはできないため、事前に両事務局に確認することをおすすめします。

Q. 人件費を対象にできる補助金は他にありませんか?
研究開発系の委託事業や一部のSBIR関連制度など、人件費時間単価の算定ルールを設けて人件費を対象にする制度も存在します。ただし本記事で扱った小規模事業者向けの主要補助金では、自社人件費はほぼ一貫して対象外です。

まとめ|「対象外」を前提に資金計画を組み立てる

持続化補助金・事業再構築補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金のいずれも、自社の役員報酬・従業員給与・アルバイト代は補助対象外という原則で一致しています。例外は外部専門家への謝金(専門家経費)のみで、対象になるのは投資性のある経費に限られます。人件費そのものを支援したいなら、厚生労働省の業務改善助成金のように制度の目的が根本的に異なるものを検討する必要があります。人件費を対象にできないという前提を早い段階で理解し、融資と補助金の役割を分けて資金計画を組むことが、無理のない開業・増員計画につながります。


出典(一次情報): 小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第20回公募要領/事業再構築補助金公募要領(第13回・旧制度)/新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回公募要領/デジタル化・AI導入補助金2026 公式サイト/中小企業省力化投資補助金(一般型) 公式サイト/厚生労働省 令和8年度業務改善助成金のご案内

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この記事の執筆・監修|DK(元銀行員・FP2級)

元地方銀行員(融資審査7年・医療機関向け融資専門)。FP2級・日商簿記2級・証券外務員。事業再構築補助金の採択・交付を受け、24時間無人のセルフ脱毛サロンを開業・運営。飲食店の開業・業態転換も経験。金融ライター歴10年以上・執筆数千本。

運営者について

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DK 元銀行員・FP2級|補助金採択で無人サロン開業

地方銀行で法人融資・融資審査を7年担当(医療機関向け融資専門)。独立後は金融ライターとして10年以上・数千本を執筆。事業再構築補助金の採択・交付を受けて24時間無人のセルフ脱毛サロンを開業・運営中。飲食店の開業・業態転換も経験。「貸す側」「借りる側」「補助金を使う側」の3つの立場を実体験した視点で解説しています。保有資格: FP2級/日商簿記2級/証券外務員。